売買契約の後に買主が死亡してしまった場合、その登記申請は相続人の一人から保存行為として申請可能なのでしょうか?
当該申請は保存行為に該当し、相続人の一人からの申請も許容されるべきと考えます。
この記事では、登記権利者がその登記申請をする前に亡くなってしまった場合に、相続人の一人から当該申請ができるかどうかについて考察しています。なお、登記義務者側に相続があった場合は、原則として相続人全員の関与が必要です。
モデルケース
令和4年10月1日に売主甲は、買主乙に対して売買による所有権の移転がありました。
しかしながら、買主乙は令和4年12月1日に亡くなってなってしまいました。
Bの相続人は、子であるAとBです。
上記の事例において、令和5年1月27日に令和4年10月1日売買を原因とする所有権移転登記の申請人は、つぎの2パターンが考えられます。
①権利者(亡)乙 上記相続人A・B 義務者 甲
②権利者(亡)乙 上記相続人A 義務者 甲
①については問題なく登記できますが、では②のようにBの委任状を取得せずに登記申請を行うことができるのでしょうか?
保存行為とは
共有者は、共有物の現状を維持するための行為(保存行為)は、各共有者が単独ですることができるとされています。
これは、保存行為は共有者全員の利益であることから、共有者間で利害対立がないことが根拠とされています。
例えば、共有者の1名が全員の利益になるための登記申請は、保存行為に当たり、共有者の1名からの登記申請が許容されることとなります。
今回の事例で、権利者側の相続があったときに、売買の登記を相続人の1名から申請することが保存行為に該当するかが問題となります。
権利者の相続があった場合の対処
当該登記申請は保存行為に該当して、権利者の相続人の1名からの申請で構いません(登記研究129号質疑応答)。
また、申請書に記載する相続人の1名だけで構いません(登記研究644号カウンター相談)。これは、Aの記載は登記名義人を表すものではなく、単に申請人である旨の資格を有していることを明らかにするための記載であるためですので、Bの記載派では要求されないようです。
一般承継証明情報として添付する戸籍類は、申請人が亡権利者の相続人であることを証明すればいいとされています。すべての相続人の戸籍が必要となると負担が大きいので、負担を軽減させる趣旨であると思われます。
つまり、今回のケースで乙とAの間に親子関係があるのであれば、親(乙)死亡記載のある戸籍と子(A)の現在戸籍が必要であると考えられます。遺言相続の登記申請の際に添付する戸籍と同列に考えてよさそうです。
登記識別情報はどうなる?
下記先例から推測すると、権利者の相続人であるAに交付されるものと考えます。
ただし、死者名義の登記識別情報を受領したところで、意味がない場面ではあります。
よく考えてみれば当たり前のことかもしれませんが、私自身も迷ったケースです。