司法書士試験に合格すると就職する方が多いと思いますが、注意すべき点はありますか?
少し闇深い世界のお話になりますが、私の見聞きした範囲で私の意見をお話しします。
なお、当事務所では所長の生活を支えるだけでアップアップの状態ですので、リクルートは行っておりません。
筆者は司法書士特別研修に関わっているので、世の中の一般的な司法書士よりは新人さんにかかわりがあると思います。その中でパワハラ、違法な労働など良くない事務所の噂を耳にすることもまた事実であります。
そこでこの記事では「ハズレ事務所」の特徴についてお話ししたいと思います。ただし、これら条件をすべて満たしてもハズレを引くことはあります。何事も例外はありますので…
即独立の割合
私は、2013年合格ですので、現在の状況とは違うかもしれませんが、当時の状況をお話ししておきたいと思います。
やはり、即独立をされる方は少なく、もともと行政書士事務所を運営されていた方や司法書士補助者経験が長い方が即独立だったり早めの独立をするという傾向にありました。一方で、それ以外の方はいったんは事務所に就職している傾向にあります。
余談ですが、私のころは独立志向なら個人事務所、勤務志向なら法人に就職するといいと言われていました。
個人的には、司法書士法人に終身で属するのなら、司法書士資格をもって、より福利厚生が充実した一般企業に就職したほうがいいのではないかと考えています。
もちろん、このあたりはの考え方は個々人によって異なる部分ではあります。
ブラック事務所誕生の背景
なぜ司法書士業界にブラック事務所が存在するのかその理由を考えてみましょう。
まず、私が見聞きしたブラック事務所の日常について記載してみましょう。
- 時間外労働(残業)は無給
- 固定残業代制度を採用していて、実労働時間で計算すると最低賃金以下
- 補正を出すと「死ね」とのLINEが送られる
- 登録免許税の計算ミスは自腹で補填させる
- 新人なのにもかかわらず、仕事を一切教えない
- 教えられていない仕事にもかかわらず、「なぜ出来ないのか」と非難される
- 指導の時間と称し罵詈雑言を長時間浴びせられる
- なぜか「これはあなたのためだから」と枕詞をつけパワハラを行う
- 暴力
もちろん新人さん側に一切問題がないわけではないのでしょうが、残念ながらこのような事例が存在するようです。
この点については、事実とすれば同業者として遺憾に堪えないとうか、もはや法律家を名乗るのも憚られるレベルだと言えます。
ではなぜこのような違法行為が蔓延るのか本項で考察します。
日本最大級の司法書士法人の規模であっても、(直接適用して良いかは置いといて)会社法でいうところの大会社にあたるのかどうかよくわかりません。しかし、日本の大会社と比べれば、その規模は小さいものと言えます。
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(省略)
6 大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 最終事業年度に係る貸借対照表(第439条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表をいい、株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては、第435条第1項の貸借対照表をいう。ロにおいて同じ。)に資本金として計上した額が5億円以上であること。
ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上であること。
大企業であれば、パワハラ・セクハラなどの相談窓口が置かれていることが一般的ですし、そのような行為が明るみに出れば自浄作用として、その企業内でサンクションを受けることになります。
また、上場企業であれば、近年のコンプライアンス強化の流れで、違法行為が発覚すればメディアに報道されたり、株価が下がれば株主の追及を受けることになりますから、自浄作用が働くことになります。しかし、司法書士事務所に上場企業はありません(そもそも株式会社化できませんからね)。
なお、週刊誌にタレこむという手も考えられますが、業界ナンバーワンの事務所でもない限りは、記事のインパクトがないので記事化されることもないと思われます。
ちなみに、残念ながら執筆時時点において、司法書士会内にそのような相談窓口はありません。
一方で、月報司法書士などを見ると、明らかに元従業員が懲戒申立てをしたような事例(内部事情が詳細であるなど)はありますが、これは根本解決とはありません。
実例で挙げた多くは登記事務所で発生しているように思われます。
とはいうものの、正確に表現するのなら、非登記事務所は資格者を雇うゆとりがないので、勤務先は登記事務所しかないことが大きいと思われます。このように非登記事務所に勤務で入る方は、相対的に少ないのです。
司法書士業界は長らく独立前提の資格である時代が続いてきました。そのため「見て覚えろ」というスタイルで、人を育てて長く働いてもらうという視点が業界になかったように思います。
また、給料も「いずれ辞める人間には多く出したくないから」という理由で高くないケースが多かったようです。
近年では大規模な法人が立ち上がり長く務めるスタイルも定着しつつあるので、次第に改善されていくのかもしれませんが、いまだに過去の慣習を引きずっている事務所も多くあるのかもしれません。
結局のところ、司法書士業界の構造は一人親方の会社と大差はないので、トップの意向が色濃く反映されることとなります。
そうなると結局トップの人間性によりブラック化するかどうかが決してしまうことになります。これはいわゆる「上司ガチャ」であり、もはや個人の力ではどうしようもないのです。
エージェント経由が一般的になりつつあるが…
私の所属する愛知県司法書士会では、インターネットに転職者向けの求人広告を貼る場所があったり、新人向けの就職あっせんを行っていました。
しかし、これは何かしらの法令に引っかかる恐れがあるとのことで、現在は行われていません。
私の知る範囲ですが、就職エージェントは一人就職させて○○万円の報酬を得るというビジネスモデルを採用している会社が多いと思います。
そのため、質の良くないエージェントだと、個人の適性や会社の良しあしを考慮せず、とりあえず人材をねじ込むをいうこともあるようです。
これはエージェント会社が悪いというわけではなく、エージェント会社はこのような収益構造であり、そういうリスクがあるものだと理解して利用する必要があると思います。
もちろん良いエージェントもあると思いますので、ご利用の際はそのような会社を選んでいただきたいと思います。
司法書士事務所も安くない金額をエージェントに払うのですから、社内環境を整備して長く働いてもらった方が良いと思うのですが、現実はそうなっていません。
ここがなんとも私の解せないところです。
いまのところこの方法が一番安全性が高いと思います。
紹介を受けた労働者に対してひどい扱いをすることは、紹介者の顔をつぶすことになりますので、心理的に違法行為などをすることは難しいと評価できるからです。
ただし、業界未経験の方は司法書士の知り合いがいないケースが多いと思いますので、この方法を採ることは難しいのが現状です。
対応策(チェックポイント)
この項では私が考える対策法を書いていきたいと思います。
もちろん、この要件をすべて満たしていればホワイト事務所というわけでもないし、一部満たしていない場合であってもブラック事務所と保証ことはできません。
就業規則は要件に該当しない場合であれば、必ずしも作成する必要はありませんが、就業規則が存在することは一つの目安となるでしょう。
聞いた話によると、就業規則を作ると残業代を支払う明確な根拠を与えてしまうから作りたくない司法書士も多いという話を聞いたことがあります。もちろん、固定残業代を採用していない限り、就業規則が無くても残業した分の残業代は請求できます(固定残業代については後述)。
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
労働契約においては、労働契約書の締結は義務ではありませんが、労働条件通知書の発行は事実上の義務ということができます。
労働条件通知書の発行がない事業者は要注意だといえます。
1 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
2 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
3 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
※労働準法施行規則第5条も参照
司法書士試験に合格すると中央新人研修に始まり、特別研修で一応の新人研修の課程が修了します。
司法書士に登録すると、年間12単位の研修単位の取得が必要となります。これは実質上の義務となっています。
これらの研修への参加を認めるかどうかも一つの判断基準となりそうです。
社会保険には、強制加入のもの(雇用保険など)とそうではないもの(厚生年金など)があります。
もし任意加入の社会保険に加入している事業者でしたら、社員に対する福利厚生の意識の高さが垣間見えるということで、事務所のホワイト度を測る指標の一つとなるかと思います。
年俸制や固定残業代制度を採用していることが直ちに違法行為というわけではありませんが、この制度の適用を受けるためには厳格な要件が定められており、要件を満たしていないのなら「年俸制/固定残業代制度だから一切の割増賃金を支払わない」という主張はできません。
見せかけ上の年俸制/固定残業代制度を採用していて、実労働時間で計算すると時給が最低賃金未満というケースもあるようです。
固定残業代制度の概要は次の記事をどうぞ。
やばい事務所は、業界内で悪い噂が立っていますので、先輩がいるのであれば意見を聞いてみるもの有力な調査方法だと言えます。
業界に絶望したあなたへ
やばい事務所では、辞める時に「あなたの能力では、ほかの事務所でも通用しない」だとか、「勤務期間が短すぎるから誰も採用しない」などと脅されるケースもあるようです。
しかし、そのような噂は業界内で蔓延していますし、早期に退職しても「あの事務所だから当然だよね」と考える司法書士が大半だと言えます。
また、現在の司法書士業界は売り手市場ですので、大都市圏であれば就職ができないことは考えにくい状況ではあります。
もちろん独立ができる資格ですので、生活の目途がついていたら見切りをつけて独立することも十分に有力な選択肢です。
誰が何を言おうとおかしな環境からは直ちに立ち去るべきです。
新人の皆さんが就職すると最初の勤務だと、「業界はこのようなものなのかなぁ」などと思ってしまうこともあるかと思います。どうしても視野が狭くなってしまうのは仕方がありませんが、それが司法書士の業界のすべてだというわけではありません。
ちゃんとした司法書士も多く居ることは確かなのですが、そのような方にたどり着くのは確かに新人さんには難しいと思います。
しかし、何とかそのような司法書士にたどり着いていただきたいと思います。
わたしも、かつて1つの個人事務所で8年近く勤務できたのも、勤務先の所長をはじめ周りの方々のおかげに他ならないのです(もちろん仕事をしていれば、いやなことやがっくり来ることはありますが、それはどんな仕事でもあるでしょう)。
なお、当事務所では、当事務所から皆様へのお約束で「内外の法令及びその精神を遵守します」と宣言しています。
現状では従業員はいませんが、雇用が発生した場合は、労働法などの法令やその精神を遵守することをお約束いたします。
少しでも私の属する業界がクリーンになることを願ってやみません。