最近AIなどを用いて司法書士(司法書士法人)以外の事業者が登記申請書などを作成するサービスがあると聞きますが、実際のところどうなのでしょうか?
基本的にはこれらのサービスの利用はお勧めしておりません。このサービスを利用するより自分で作成した方が良いと思います。
この記事は、司法書士が執筆しているわけですから、当然「司法書士に依頼しましょう」という結論になるわけです。
この記事は、司法書士の「ポジショントーク」であることを認識していただき、その分を差し引いてご覧いただければと思います。
なお、「AIが士業の未来を奪う」ので、規制すべきであるという論調もあるかもしれませんが、私の個人の見解は、士業もAIを活用し、代替できるところはすべきであるという立場です。
司法書士業界内でも、AIの参入に関して緩い方の立場だと思います。
結論
近年ではAIの台頭により様々な登記申請書の作成代行サービスがあります。
その中でも、司法書士が「監修」だとか、まったく関与していないサービスもあるようです。これらのサービスに利用に関して、先にも述べておりますが、個人的にはこれらのサービスの利用はお勧めしておりません。
以下では、その理由を書いていこうと思います。
申請書作成代行業者の利用をお勧めしない理由
第一点目は、申請書作成サービスが直ちに違法だとは言えないかもしれないのですが、一定の基準を超えたサービスは、違法行為である可能性がぬぐい切れないことです。
司法書士法には次のような規定があります。
司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第3条第1項第1号から第5号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
この第3条第1項では、「法務局又は地方法務局に提出する書類を作成すること」や「登記などの相談を受けること」があげられています。そのため登記申請書の作成は、この条項に違反する可能性があるわけです。
なお、統一的な法規制や判例は現在のところないようですが、各司法書士会からも下記のような声明が出ています。
役員の変更登記の報酬などにつき私の事務所と申請書作成サービスを比較した表です。
項目 | 弊所 | とある代行業者 |
---|---|---|
報酬 | 2万7500円 (税込価格) | 1万1000円 (税込価格) |
登録免許税・郵送費 | 別途必要 | 別途必要 |
申請書の代理提出 | 0円 ※報酬に含む | 約9900円 (税込価格) |
登録免許税の代理納付 | 0円 ※報酬に含む | 約2200円 (税込価格?) |
相談 | 可能 | 不可能 ※相談を受けると明白な司法書士法違反 |
登記過誤時の責任追及 | 可能 | 不可能であると思われる |
手前味噌ではありますが、司法書士に依頼した場合、相談やアドバイスというサービスが約4400円で受けられると考えると、個人的にはさほど高くはないのではないかと思います。
また、それ以上の付加価値を提供している司法書士事務所がほとんどであると思いますし、そうでなければ司法書士の存在意義が薄くなってしまうと思います。
事案によって、また事務所によっても大きく差が出る場合もあるかと思いますが、個人的には総合的に考えれば司法書士の費用もそこまで高くないのではないかという感想です。
相続登記の申請書作成サービスもあるようですが、相続手続きの一番肝である戸籍収集は自分で行う必要があります。
また、戸籍を「読む」作業をし、相続人資格のある方を確定させる必要があります。相続人を漏らしていると登記申請は通りません。
申請書作成サービスでは、(市役所でも優しく案内されるようにはなりましたが)そのあたりの一番面倒で難しい作業をご自身でやっていただくことが想定されます。
原則として戸籍や登記申請は平日の開庁時間内でないと受け付けてもらえないので、平日に時間を取っていただく必要があります。
もちろん、郵送で登記申請や戸籍請求を郵送ですることは可能ですが、何かと面倒くさいです。詳しくはこちらの記事をどうぞ。
また書類によっては市役所の窓口でしか取得できないものもあります。マイナンバーカードでコンビニで取得することもできますが、あいにく名古屋市はコンビニ証明書のサービスの提供はありません。
実は法務局のホームページで、一般的な登記申請のひな型は公開されています。しかも割と詳細です。
相続登記などは手間と時間を掛ければ何とか登記完了にまで持ち込めるケースが多いのかなとは思います。
また、商業・法人登記は、ご自身の会社の状況は把握されていると思いますので、自分であてはめるだけで済んでしまう気もします。
もちろん、自分でやってみたものの途中で断念し、司法書士に依頼することも可能です。
司法書士に依頼していただければ、そのあたりは完璧に仕事をし、登記に費やす時間を削減できるはずです。
これらの申請書は、法務省の官僚が作成しているらしいので、正確性は抜群です。私も時々参照することがあります。
自分でやるか任せるかの分水嶺
最後に自らの責任において登記申請を行った方が良いのか、司法書士等の専門家に依頼した方が良いのかについてまとめました。
・比較的時間に余裕がある方
・平日昼間に比較的動ける方
・費用を押さえたい方
・登記申請を経験してみたい方
・ある程度の法律知識のある方
・普段お忙しい方
・失敗が許されない登記申請の場合
・平日昼間に時間の無い方
・早く登記手続きを完了させたい方
・登記が必要と言われたが、何をすればいいかわからない方
自分でやってみたり、自称専門家に任せたりして、後々苦労するケースを多々見ている身としては、まず最初に適切な専門家へのご相談・ご依頼を強くお勧めしたいと思います。