会社設立後の定款の附則は削除可能なのですか?
”実質的に”可能です
【問題の所在】
会社法27条によると、「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」と「発起人の氏名又は名称及び住所」は絶対的記載事項であり、設立時の株式会社の定款では定款附則に記載される例が多いところです。
一方で、設立後の株式会社の定款では、これらの記載は特に必要とされることは少なく、定款附則がカットされている例も多いし、それを官公署に提出しても特に問題は生じてはいないのが現状ですし、個人情報の保護等を考えるとカットしておいたほうがいい気もしてきます。
しかしながら、会社法には会社設立後、絶対的記載事項に関して、削除してよい旨の規定はないし、会社法27条の記載を見ても削除してよいとは解釈することはできないのです。
この実務と会社法のギャップはどう考えるべきでしょうか?
なお、絶対的記載事項を欠く原始定款に関しては、当然であるが定款認証は行われることはありません。
株式会社の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
1 目的
2 商号
3 本店の所在地
4 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
5 発起人の氏名又は名称及び住所
【結論に至った理由】
下記参考文献①を要約すると、「定款を変更して設立関連事項を削ってしまってよいか」という問い合わせを受けるところ、「設立関連事項について実体的な定款変更はできない」とされています。
しかし、設立関連事項につきその内容が問題とならなくなった時点で「定款としての書面ないし記録から削り、閲覧の対象から除外するということであっても、定款の備置閲覧義務に反」しないとされています。
よって、定款附則の削除はできないが、公表する部分からは定款附則を除いても差し支えないとされています。
下記参考文献①の説明では、なんとも腑に落ちない感じはしますけれども、「一部抜粋」として定款を公表していると考えることもできそうです。
確かに、実質的に不要な部分まで公にさらすことは必要ありませんし、発起人の個人情報の保護の観点からもこの結論は適切だと考えます。ただし、発起人=会社役員のケースは多いですので、登記に反映されてしまうわけではあります。
ただ、原本証明をする際、「この定款は原本の一部と相違ない」とか「この定款は原本と相違ない(一部抜粋)」と記載するのが正確なのでしょうが、受け取る側にごちゃごちゃ言われる可能性があるので、単に「原本と相違ない」という記載にしておくのが妥当なのではないでしょうか。
参考文献
①相澤哲「会社登記実務から見た定款認証の諸問題」『公証』151号,日本公証人連合会編,p.18-19
→公証役場で見せてもらいましたが、見せてもらえるかは公証人の判断によります。
②https://blog.goo.ne.jp/chararineko/e/d229b4162c31427f85c758c8602b19bb
新保さゆり「司法書士のオシゴト」(2022年6月10日現在)