売買や贈与により所有権を取得した場合は、必ず登記をする必要はあるのでしょうか?
登記したほうがいいでしょうし、実質的に義務とも言える面もあります。
「登記をしましょう」という結論だけ見ると司法書士のポジショントークのように聞こえてしまうかもしれませんが、不動産登記をするメリットは大きいです。下記で理由をお話ししましょう。
なお、まもなく相続登記など一部の登記に関しては登記が義務化される予定です。詳しくはこちら。
相続手続きはいつまでに行う必要があるのか?不動産登記は高い?
この記事をご覧になっている方の中には、司法書士から数十万円の請求を受けてビックリされている方もいるのかもしれません。
特に土地の売買だと登録免許税(国に納める税金)だけで20万円以上になることもザラにあります。ここに司法書士報酬が5~10万円程度乗っかります(借入れがあればここにさらに加算されます)。
なお、司法書士への報酬が高いと思われがちですが、請求する総額は税金を含んだ部分であり、実は税金の部分が大きいのです。税金ですので仮にご自身で手続きをしても削減できません。
では、安くはない費用をかけて不動産登記をすることに価値はあるのでしょうか?
登記をしないと所有権を失う?
例えば、所有者であるAが不動産を売却する場合について考えてみましょう。
最初にBに1000万円で売却し、買主Bは1000万円を支払いました。その際にAからB名義に不動産登記の名義を変えませんでした。
数日後Aは買主Cに1000万円で売却し、買主Cは1000万円を支払いました。その際にAからC名義に不動産登記の名義を変更しました。
図解するとこうなります。
この場合は、どのように解決すべきなのでしょうか?
解決方法は民法第177条に定めがあります。
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
「対抗する」などと小難しいことが書かれていますが、要するに「登記を保持している所有者Cは、自らが所有者であることをBに対して主張できる」こととなります。
これが不動産登記を保持することの最大の効力である「対抗力」です。
なお、BはCに対して金銭等の一切の請求をすることはできません。BはCから損害を回収することはできません。
Bは所有権を失うし、1000万円を失っているので、Aに対して1000万円の返還と損害賠償を請求することができます。
ただし、このようなことをするAはCからの売買代金を受け取った後すぐに逃げてしまうでしょう。Bとしては逃げられてしまっては所有権を失った上に、代金の回収は極めて厳しいと言わざるを得ません。
登記を受けていなければいつBの立場に立たされるかわからないのです。
副次的なメリット
所有権移転の登記とともに担保の登記(抵当権設定)をする場合もあります。これは、借金が返済ができないと不動産を競売してその代金から返済を受けるという強力な権利です。
一見借り手側に不利な気がしますが、金融機関側は不動産の価値の算定を間違えない限り回収できるということになります。そうすると一般的には不動産価格は高いですから、ご自身の信用に加え不動産の価値分の金額を借り入れることになりますから、数千万円を超える高額の借入れをすることができます。
「高額の借入れができる」の項ででお話しした通り、貸し手にとっては貸倒れの率が低くなります。
実は利子を払うということは、その一部が貸倒れになった人の分の補填に充てられています。貸倒れの率が低いということは、利息を高くする必要がなくなるのです。
例えば消費者金融の無担保のローンの利息が5%から15%であるところ、不動産を担保に取る住宅ローンでは1%を切る商品もあります。
もし誰かに不動産を売却する必要が出たときは、買主は通常前記の「対抗力」を欲しがるのがほとんどですから、売主から買主に登記名義を変えなくてはなりません。
もし、名義が前の所有者のままだったらまず自分の名義にした上で、買主名義にする必要があります。
そのためには売り主を探し出し、必要な書類の提供などを受ける必要があります。もし、前の売り主が亡くなっていたら、その相続人から書類の提供を受ける必要があり、手間と時間と費用が掛かってしまいます。
迅速に不動産を売却するためにも、自身の名義にしておく必要があります。売らなくてはいけない展開になる時は、売却までの時間があまりないケースも多くあります。
登記申請は実質的に義務なのか?
売買の登記は、法律上の義務ではありませんが、実質的に義務に近い面もあります。
実は売主には、買主に対して登記をするように要求する権利があります(登記引取請求権)。
売主に登記名義が残ってしまった場合、固定資産税の課税が売主に行われてしまうといった不利益があるからです。
そのため、親族間でもない限り登記の名義は買主が引き受けることとなります。
金融機関からの借入がある場合、その融資の条件として、所有権の登記と担保の登記の全ての登記を行うことが条件とされている場合がほとんどです。
金融機関としては、登記をすることを前提とした金額と利息を設定しているわけで、登記は事実上の義務と言えます。
以上の理由から、専門家として登記をされることをおすすめします。
特に所有権を取得する場合は、登記をすることによってその取引のすべてが完了することとなります。