次のような事案では、事前通知の申出書(回答書)には、甲と乙のうちどちらの印鑑を押印して法務局に返送することが適切でしょうか?
根抵当権者A銀行:根抵当権解除証書及び委任状作成
事前通知による手続きを行うため、委任状には会社の実印(改印前のもの・「甲」という)を押印
B司法書士に根抵当権の抹消の登記依頼。同日付で登記申請。
根抵当権A銀行:法務局に改印の届出(改印後の印鑑は「乙」という)
法務局は、A銀行に向け事前通知の発送。
事前通知の申出書(回答書)には、甲・乙のどちらの印鑑の押捺でもかまいません。
問題の所在
法人が①委任状を作成したのち、②事前通知による手続を伴う不動産登記申請を行い、③改印をおこなった場合について考えてみましょう。
このとき事前通知の法務局への申出書(回答書)に押印する印鑑は、改印後のもの(乙印鑑)か押印前のもの(甲印鑑)のどちらになるかという問題が生じます。
論点1 B司法書士の令和4年3月30日付の登記申請は適法か?
まず委任状作成日が令和4年3月28日ですので、改印前の甲の印鑑を委任状には押印すべきです。
乙の印鑑が会社の実印(法務局届出印)として効力を生じるのは4月1日からですので、作成日時点の届出印を押すこととなります。
仮に改印後の乙印鑑が押されていた場合は、その効力は認印と同様であると考えら、法務局からは補正を求められることなります。
論点2 改印後に発出された事前通知には甲・乙のどちらを押印すべきか?
この問題を解決するにあたり、次のような先例が発出されています。
なお、旧保証書時代の案件ですが、現在でも有効な先例だとのことです。
不動産登記法の一部改正等に伴う登記事務の取扱について
【要旨】保証書を提出して登記の申請があった場合、回答書の押印が委任状に押捺された印影と異なる場合であっても登記申請後に改印の事実が印鑑証明書で証明できれば、登記申請は受理される
この見解によれば、法人は事前通知の申出書(回答書)に押印する印鑑は乙印鑑となります。なお、同先例では印鑑証明書の添付も求められていますが、執筆時においては法人の印鑑証明書についてはすべての登記所で添付省略となることから、法務局で調査されることとなりますので、乙印鑑を押してあればそのほかの添付書類は不要と考えられます。
では仮に、事前通知の申出書(回答書)に甲印鑑が押されていた場合はどうでしょうか?
不動産登記規則第70条第5項に「申請書又は委任状に押印したものと同一の印を用いて当該書面に押印」とありますので、これはこれでOKということになりそうです。
論点3 個人の場合はどうか?
法人の場合を見てきましたが、個人の場合でも同様に考えることができそうです。
改印前の印鑑を申出書(回答書)に押印した場合は、不動産登記規則第70条により適法、改印後の印鑑を申出書(回答書)に押印した場合も登記研究第152号の見解により適法という結論となると考えます。
ただし、昭和39年5月26日付民甲第1277号民事局長回答3の趣旨によると、後者の場合、申出書(回答書)とともに印鑑証明書を添付する必要があり、添付を忘れると補正も認められないようですので、十分に注意する必要があります。
印鑑証明書の添付が免除された法人との扱いの違いに注意しましょう。